いろは一族 永久と刹那の輪舞

「俺の屍を越えてゆけ」のプレイ記です。

いろは一族 永久と刹那の輪舞

1020年8月 幕間「優しい少女が願ったもの」

いろは波瑠の逝去まで想いを綴ったSSです。
マンガにする予定でしたが今回はSSで。

波瑠チャソ逝去時のプレイ記は下の記事からどうぞ。

続きを読むでSSが読めます。

 

1020年8月 幕間「優しい少女が願ったもの」

いつの日か聞いたことがあるんです。
確かあれは伊吹お兄様が亡くなってから数日後のこと、だったと思います。
イツ花さんに。
そして比呂お兄様に。
死ぬことって怖いんですか、って。

その日からです。私が死について考えるようになったのは。

 

 

 

思い返してみれば、お母様も伊吹お兄様も、そして比呂お兄様も死ぬことに抵抗はなかったように感じます。
強い人たちでした。
とても、強い人たちでした。
私はそんなお母様とお兄様たちに憧れを抱いていました。

いつか私にも死が訪れる。
だからこそ、きっと。
私もお母様やお兄様たちと同じように、純粋に死を受け入れ死そのものに抵抗がないものだと考えていました。

 

……だけど。
自分の健康状態が悪くなり始め、もうすぐ死ぬと分かった瞬間、私は怖くてたまらなかったのです。
手が震えました。
足も震えました。
討伐とはまた違う恐怖が私を襲いました。
頭の中には死のことばかり。
私には耐えることの出来ない恐怖でした。

 

私は今この瞬間を生きていたいのです。
保乃ちゃんの隣で、へき瑠の隣で、布都くんの隣で。
そしてニコラ様の隣で、生きていたいのです。
まだ、私は死にたくはないのです。

人はその瞬間にならないと理解できないことがたくさんあります。
そして、私が死を理解したのはまさに今この瞬間で―――。

この理解は呪われている身としてはあまりにも遅すぎるものだったと思います。

 

 

 

それからの私は生きることを諦めませんでした。
討伐には参加せず、穏やかな時間を過ごしました。
苦いお薬もお食事と一緒に飲み込みました。
生きることに対してあらゆる努力をしました。
…………努力せざるを得ませんでした。

これがいろは波瑠なりの、死に対するせめてもの足掻きです。

 

 

 

そして、1020年8月。
お医者様やイツ花さんからは7月までの命と聞いていましたが、数々の努力の甲斐あって私の命はもう少しだけ続きました。

だけど。

だけれども。

私たち一族の命はあっという間です。
私たち一族の想いもあっという間です。
どんなに生きたいと願っても、呪いがそれを許してはくれません。
頑張って掴み取ったこの命も、まだ生きたいと願った日々も、もしかしたら1秒先の私には訪れないかもしれません。

 

 

 

だから。

だからこそ。

今この瞬間を生きる貴方たちは、今この瞬間を諦めないでください。

 

この言葉は呪いだと思っています。
そんなことは自分でも十二分にわかっています。

それでも、私は、いろは波瑠は。
こんな恐怖を貴方たちに体験なんかしてほしくないんです。

私よりも1日も長く生きてください。
私たちいろは一族の運命は呪いに縛られることではなく、死ぬことなんかよりも生きることで光輝くことを、私いろは波瑠は切に願っています。

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――追伸。

 

ニコラ様は私にとって大切な家族でもありヒーローでもありました。
ニコラ様の存在は私にとって眩しいくらいの光でした。
ニコラ様は気付いていないかもしれませんが、ニコラ様が傍にいることで私の心は何度も救われました。


ありがとう。

 

本当にありがとう。

 

ニコラ様の傍で、そして1番に応援が出来て、私は本当に幸せ者でした。

 

f:id:litchi_0912:20191019210325j:plain